「回送バス」はなぜ客を乗せずに走るのか? 自由に走っているようで、じつは決められたルートがある

街で見かける「回送バス」は、ただ空っぽで走っているわけではない。始発や終点への移動、乗務員交代、車両運用を支える大切な役割がある。

街で見かける「回送」の文字。なぜ乗客を乗せずに走るのか? 街中を走る路線バスの行き先表示に、「回送」や「回送車」と書かれているのを見かけたことがあるだろう。英語表記では一般に「Not In Service」や「Out of Service」と表示される。乗客を乗せずに空っぽのまま走る姿は、一見すると経営的には非効率にも感じられる。しかし、これには路線バスという公共交通機関を円滑に維持するための、れっきとした理由が存在するのだ。

回送バスは何のために走っているのか

回送車の運行目的は、主に営業所や車庫から始発地点への移動、および終着地点から営業所への帰還である。バスは一度営業所を出たら、最終まで走り続けているわけではない。すなわち、回送運行は早朝に車庫を出発して各系統の始発バス停に向かったり、深夜の最終運行を終えて車庫に戻ったりするだけではなく、日中でも本数調整や乗務員交代を目的として、乗客を乗せずに移動するためのものなのだ。

営業運行を行う路線バスは、道路運送法に基づき、国土交通省から認可を受けた「運行系統」、つまり固定ルートを忠実に走る義務がある。これに違反して勝手にルートを外れて走ることは許されない。これに対して、回送運行には営業運行ほどの厳格な縛りはない。それでは、そのルートを決めているのは誰なのだろうか。

ルートを決めるのは運転手ではない

回送ルートを決めているのは運転手ではなく、バス会社の「運行管理者」やダイヤ編成の担当部署である。営業運行のような国への厳格な認可申請こそ不要な場合が多いが、会社が路線ごとに「回送経路」を厳格に決めている。その理由は「安全性」と「確実性」で、以下のような点に留意されている。

大型バスが安全に通れる道幅があるか。高架下などの高さ制限や重量制限をクリアしているか。右左折が困難な交差点はないか。通学路や密集した住宅街といった、事故などのリスクが高い場所を避けているか。渋滞が起きやすい場所を避けているか。

これらを精査した上で、車庫と始発・終着地を最短かつ安全に結ぶ経路を、「回送ルート」としてあらかじめ設定しているのだ。

回送中でも勝手なルート変更はできない

このルートを運転手の判断で変更できるかというと、それは基本的に認められていない。回送中であっても、会社が指定した経路を走るのが鉄則だ。ただし、営業運行中とは違って、現場の状況に応じた柔軟な対応は可能である。

たとえば、指定ルート上で突発的な大渋滞や交通事故、道路工事による通行止めが発生した場合は、そのまま進むとバスの運用に支障が生じてしまう。このような場合は、無線などで営業所の運行管理者に状況を報告して指示を仰ぐ。運行管理者から経路の変更指示が出れば、ルートを変えることができるのだ。

営業運行中にルートを外れる場合は厳格な手続きや乗客への配慮が必要だが、回送中であれば運行管理者の許可を得ることで、比較的スムーズに迂回ルートを選択できる。

路線バスの回送車両は、一見自由に走っているように見えるが、会社の運行管理のもとで徹底的にコントロールされている。大きな車体を安全に運行し、時間通りに乗客を乗せて営業ができるように、運転手と運行管理者が連携をとることによって、あの「回送車」の走りが支えられているのである。

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