
トラックも普通自動車も燃料を入れる容器はついているが、最も大きな違いは、その搭載位置。乗用車の場合、車種によって差があるものの、ほとんどが車体の後部、もしくは中央の下側についているので外からは見えないようになっています。
一方でトラックの燃料タンクはシャシーの外側に固定され、むき出しになっていますが、これは車体中央部分にはマフラーやプロペラシャフト、ディファレンシャルといった重要かつ大きな装置が配置されているため、燃料タンクを設置するスペースがないというのが理由です。
またトラックの燃料タンクはボルトなどで固定されていないことがほとんどで。そのかわりタンク全体をバンドで巻いて固定する方法が採用されています。これはボルトなどでシャシーに直接固定してしまうと、車体のねじれが燃料タンクに伝わってしまい破損する原因となるため、ねじれの力を吸収するためなのです。

さらにトラックは、乗用車と比べると長距離を走行することが多いため、容量の大きい燃料タンクが必要で、その大きさも乗用車と比較するとかなり大型となっているのも特徴です。
一般的な乗用車の場合、燃料タンクの大きさは軽自動車で約30リットル、普通車で約50~70リットル程度ですが、トラックの燃料タンクは100〜400リットルと、乗用車の数倍にもなります。さらに、トラックでは燃料タンクを増設することもあり、ふたつの燃料タンクを持つケースもあるのです。

ただし燃料タンクの増設には法律によって規制があり、ガソリンの場合は200リットルまで、軽油の場合は1000リットルまでと決められています。さらにトラックは最大総重量が法律で決まっており、車体部分の重さ+最大積載量が最大総重量の制限以下でなくてはいけないため、燃料の容量を増やした分、積載量を減らして登録をしなおす必要があります。
最大積載量をそのまま減らさずにいると、積載量の水増しということで「道路運送車両法違反」となり罰則を受けてしまいます。
こうした燃料タンク増設は1回の給油で走行できる距離が伸びるため、給油の回数が減り、輸送効率アップや燃費の向上にもつながります。
このように色々な部分で乗用車とは違うトラックの燃料タンクですが、搭載位置や固定方法、容量の違いの他にまだまだ多くの特徴を持っています。
そのひとつが燃料タンク自体の素材です。トラックは乗用車と比べると過酷な使われ方をすることが多いため、燃料タンクには優れた耐久性が求められます。そのため頑丈な金属製の燃料タンクが使われることが多く、簡単にサビが発生しないような工夫も施されています。しかし、燃料タンクは大きくなるほど重くなります。その結果、燃料タンクが重くなると、その分の荷物の量を減らさないといけないため、燃料タンクは軽量素材であることも重要なポイントなのです。
ではタンク内の構造はどうなっているのでしょう。
タンク内の燃料はトラックの動きによって、前後左右に波打つように動きます。燃料が少ない状態でタンクの端に燃料が移動してしまうと、燃料を吸い上げる部分に燃料がなくなってしまい、エンジンへの燃料供給ができなくなってしまいます。この現象を防ぐために、燃料タンク内部にはバッフルプレートという仕切りがあり、燃料が少なくなっても吸い込み口に燃料が集まるようになっています。また底がおわん型になっている燃料タンクも、その役目は同じです。
もちろん燃料を入れる容器である以上、安全性にも細かな配慮がなされています。それが基準改正(UN-R34)と呼ばれるものであり、事故発生時の安全性を高めるため2018年9月1日以降の新型車には、新基準の燃料タンクを装着しなければならないというルールが存在し、その概要は以下の通りです。
【燃料漏れ防止基準(UN-R34)】
【改正概要】
・現行タンクの基準のほか、タンク及びタンクに取り付けられている装置を装備した際の加圧試験を追加。
・金属製のタンクにも腐食性にかかる試験を追加。
・注入キャップの基準の追加(従来の「空気が抜ける構造」から「密閉式」に)。
・自動車転覆時燃料漏れ試験。
【適用範囲】
・液体を燃料とする自動車。
【適用時期】
新型車:認可年月日が2018年9月1日以降の新型車。
この改正前のトラックの軽油燃料タンクは、トラックの追突事故や横転事故の際に燃料が漏れやすい構造となっていたことで、人命が失われるような痛ましい事故に繋がることがありました。そこで、安全対策のために基準改正(UN-R34)が行われ、事故発生時にもタンクから燃料が漏れにくい構造に変更されたのです。
こうした事故時の燃料漏れの原因は、燃料タンクとキャップに隙間があり、その隙間からタンク内で不足した空気を供給する仕組みになっていたからです。そのため燃料タンクの構造を抜本的に見直す必要があるとされ、車両火災防止協定規則(燃料漏れ防止基準 UN-R34)が施行されたというわけです。つまり、基準改正の対象車両には、改正前の燃料タンクやキャップの取り付けができないのです。
見えているけれど、その正体がよくわからなかった燃料タンク。まさに工夫と安全性能を持った巨大パーツと言えます。

