見た目と実用性を兼ね備えたトラックのエアロパーツ

1980年代、乗用車のエアロパーツはブーム真っ盛りであった。このパーツはふたつの大きな実用的役割を持っており、そのひとつが空力抵抗を軽減することだったのだ。車両に限らず、地上を移動するすべての物体は必ず空気の抵抗を受ける。これは、進もうとする力に制限をかけるものだ。速く進もうとするほど、空気の抵抗は大きくなる。ゆえに、空気の流れをスムーズにして、抵抗を小さくする必要があるのだ。

もうひとつは、ダウンフォースだ。これは、車両を地面に押し付ける向きに発生する力のこと。車両を地面に押し付ければ、それだけ地面と接するタイヤの摩擦抵抗は高まるので、燃費や走行に悪影響があるように思うかもしれない。しかし、車両に揚力が発生すると浮き上がる方向に力が働くために、ハンドリングやブレーキングといった車両のコントロールが効きにくくなる。ダウンフォースが働けば、タイヤがしっかりと地面を捉えるので車両のコントロールがスムーズになるのだ。

ただ、これらの効果は高速で走行するレースの話。街なかを30㎞/hや60㎞/hで走っている分には、あまり影響のあることではない。すなわち、エアロパーツは本来の実用性から一般車両に普及したのではなく、レースカーの格好良さをまねたドレスアップパーツだったのだ。いい換えれば、個人的な趣味嗜好のアイテムだということである。ゆえに、営業車であるトラックやバスには採用されなかったのであろう。

ところが、2012年に三菱ふそうトラック・バスから「スーパーグレート・フューエル・エフィシェント・トラック」が発表された。これは大型トラックスーパーグレートをベースに、空気抵抗を低減した新開発ドラッグフォイラー(導風板)や、サイドスカートなどを導入して空力の最適化を行い、燃費改善効果を狙ったものである。

わが国のトラックは道路運送車両法や道路法の制限のなかで積載効率を高めるために、キャビンは切妻型のデザインになってる。これは、空力抵抗の上では非効率だが積載効率は高い。確かに、大型トラックは現在でも最高速度が90㎞/hだから、空力抵抗を考えなくてもよさそうに思うが、実は意外と空気(風)の影響を受けているのだ。最もわかりやすいのは、トンネルから出たときの横風だろう。

空気の流れは、何も横風や正面からだけではない。車両の下部や後部では渦が発生するために、それが前に進む動きに対して負の力として働くのだ。通勤電車も正面は切妻型だが、空気抵抗を抑えるために前方上部を丸くしたり、フィンやスカートなどをつけたりして空気の流れを整えている。ドラッグフォイラーやサイドスカートは、まさにそれと同じような働きをするパーツなのである。

2024年にパシフィコ横浜で開催された「ジャパントラックショー2024」では、日本初の大型トラック用エアロパーツ(アンダースカート)が登場している。これは、従来欧州で見られたような実用一辺倒のものではなく、サイドにダミーフィンが刻み込まれて立体感を演出するなど、デザイン性にも優れているのだ。これまで、トラックの装飾といえば派手なアートを想像しがちであったが、これからは実用性を備えたスマートなドレスアップも、ひとつのトレンドになっていくのかもしれない。

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