
現在では、あまり見かけなくなったといわれる「ドライブイン」。本来は、比較的交通量の多い道路沿いに設置された駐車場付きの商業施設のことを指す。ただ、高速道路にあるものは「サービスエリア(SA)」「パーキングエリア(PA)」と呼ばれ、「ドライブイン」とは一線を画しているようだ。
「ドライブイン」の商業施設は主に飲食店で、土産物などを売る店舗が入っている場合もある。すなわち、対象ユーザーは長距離運転をするドライバーやその同乗者ということだ。いい換えれば、観光や営業のためにクルマで通行する人たちなのである。中でもトラックドライバーにとっては、食事をしたり休息をしたりする場所として、たいへん重宝されているようだ。
ところが、近年では高速道路網が整備されたことや、それに伴ってSAやPAが充実したためにクルマの流れが変わってきている。そのため、ドライバーから人気のあった一般道のドライブインは、需要が減少して閉店が続いているのだそうだ。三重県四日市市の国道1号線沿いで、長くトラックドライバーに愛されてきた「采女食堂」も、2024年12月に閉店を余儀なくされたという。

国道1号線は、東京から大阪を結ぶ幹線道路。三重県を通る下り線は、名古屋市方面から桑名市を経て四日市市に入ってくる。追分で国道25号線と合流し、しばらく行くと「采女食堂」の赤い看板が見えてくるのだ。駐車場はひたすら広く、大型トラックでも余裕で駐車が可能。店舗は2階建てで、こちらも正面に目立つ赤い看板が掲げられている。
入り口を入れば、すぐ左側に食品サンプル。定食や一品ものが並んでいるが、これはメニューのごく一部に過ぎない。和洋定食に加えて、ラーメン・チャーハンといった中華のほかに、定番のうどん・カレー・丼物など、まさに昭和の定食屋さんそのものの品揃えである。

厨房前には様々な小鉢や総菜が用意されており、好みに合わせて定食や一品料理にチョイスすることができる。この総菜メニューがたいへん充実しているのだ。から揚げ・コロッケといった揚げ物のほか、ミートボール・サバみそ・レバニラなどのメインメニュークラスのものに加えて、ほうれん草のおひたしや高野豆腐の煮物といった副菜物、プリンやシフォンケーキといったスイーツまで揃っている。頻繁に立ち寄っても、決して飽きることのない豊富なメニューバリエーションだ。
定食はほとんどが1000円未満で、ラーメン・カレー・丼物などは550円~800円程度といずれもお手頃価格。ライスは小~特大の4種類あって、食べたい量を自由に選択することが可能なのだ。味付けが中部地区らしく少し濃い目になっているから、ライスは多い目の注文が多かったのではないだろうか。

昭和レトロな雰囲気を醸し出し、利用するドライバーのオアシスのような存在であった「采女食堂」は、2024年12月にひっそりと閉店した。「閉店のお知らせ」と題した張り紙が入口に掲げられ、「店主の病気療養」がその理由と書かれていた。跡地がどうなるかは、今のところ明らかになっていないという。多くのトラックドライバーが利用していた名物ドライブインの火が消えたことは、たいへん残念であるとしか言いようがない。

