
昭和の自転車には乾電池式のウインカーがついていた車種もあったが、今ではそのような自転車を見かけることはない。免許が必要のない自転車では、交通ルールが徹底されていないこともあるようだが、道路交通法では右左折の際には合図を出すように定めている。これはウインカーなどではなく、腕を使用して行うものだ。曲がる方向の腕を横に伸ばすか、反対の腕を伸ばして上腕を直角に上にあげる。まわりの人や車両からは、結構わかりやすい合図だといえよう。
自動車にはウインカーランプが使用されていて、曲がる方のランプを点滅させる。近年は流れるようにランプが点くシーケンシャルタイプが登場し、静かなブームになっているようだ。しかし、クルマが登場した当初は曲がる合図に関する規定がなく、馬車で行われていた手による合図がそのまま受け継がれていたようだ。
この動作からヒントを得て、海外では曲がる方向に矢板が飛び出すセマフォーと呼ばれる腕木式のウインカーが開発された。わが国では、アポロ工業が同様の方向指示器を開発・販売したことから、このタイプをアポロウインカーと呼ぶようになったのだそうだ。矢板が出るもののほか、矢板に反射板を装着したものやランプを埋め込んだものなど、時代とともにアポロウインカーも進化していったようである。

このウインカーは、高度経済成長期頃まで盛んに使用されていた。特にボンネットバスやオート三輪トラックといった車両に、多く採用されていたという。しかし、視認性・利便性・メンテナンス性などといった点から、次第にランプ点滅式が多数を占めるようになっていったのだ。その後、1973年に道路運送車両法が改正されたことで、アポロウインカーを新車に装着することができなくなった。そのために、同社も本事業から撤退したのである。
このアポロウインカーは、多くがフロントピラーやサイドピラーに取り付けられていた。矢板を使用していないときは、ピラーに並行に取り付けられたケースのなかに収納した。ウインカースイッチを入れると、曲がる方向の矢板が電磁石によりケースから出て水平になるのだ。矢板の色は、現在のウインカーレンズ同様にオレンジでよく目立っていた。ただ、現在のウインカーのようなハザード機能はない。

このようにして市場から姿を消したアポロウインカーだが、近年の昭和レトロブームに乗じて装着を望むマニアが一定数存在している。実際に手に入れる場合、もっとも簡単なのはオークションサイトなどで探すことだ。たまに状態のよいものなども出品されているので、落札できればそれを取り付ければよい。
しかし、先述のようにウインカーには厳密な規定があるために、落札したものを単純に取り付ければよいというものではない。フロントピラーやサイドピラーに取り付けた場合、車両全幅にもかかわってくる。場合によっては、改造申請をしなければならないこともあるのだ。なかには、矢板にLEDランプを仕込んで、シーケンシャルタイプの点滅ができるものを自作する強者もいるという。しかし、一般的にはレストアを扱う整備工場などに依頼するのが無難なようである。
