
多分、この先にめっきりその姿を見なくなるであろうパーツのひとつにスペアタイヤがある。ひと昔前なら、乗用車のトランクには応急用にスペアタイヤが積まれていたものだが、最近ではスペアタイヤの代わりにパンク修理キットが搭載されている車種も多くなった。
この背景にはスペアタイヤの搭載義務廃止がある。搭載義務が廃止された正確な時期は不明だが、1999年に日本自動車工業会と日本自動車タイヤ協会が作成した「スペアタイヤレス車両のガイドライン」が影響を与えたといわれている。
これは時代とともに道路環境やタイヤ性能が進化したことで、運転中のパンク事故件数は件数の減少や、トラブルに対して迅速にサポートしてくれるロードサービスも増えたという背景も影響している。
スペアタイヤ搭載義務の撤廃はトラックも同様だったが、その一方で 国土交通省は平成30年10月1日より、車両総重量8トン以上又は乗車定員30人以上の大型自動車のスペアタイヤについて3ヶ月ごとの点検を自動車の使用者に義務づけている。
これは岡山県の中国自動車道で発生した大型トラックのスペアタイヤ落下による死亡事故に起因する。
スペアタイヤは搭載しなくてもいいというルールではあるが、街なかを走るトラックは荷台下部にスペアタイヤを搭載していることがほとんどだ。重い荷物を積載して長距離を走ることを考えれば、万が一のパンクにも対応できるようにスペアタイヤを常に搭載しているのは当たり前といえる。
そしてトラックのスペアタイヤが非常に重くて大きいのは周知の事実だが、とても人間ひとりの力で着脱ができるようなものではない。それほどの重量物であるトラックのスペアタイヤだが、注目したいのはそれを固定するスペアタイヤキャリアだ。

スペアタイヤキャリアとは、トラックのスペアタイヤを車両に積載するための装置のことで、重いものでは100kgを超えるスペアタイヤを確実に固定することができる。
そしてスペアタイヤキャリアはトラックのシャシーに取り付けるため、スペアタイヤはシャシーの下部や側面に格納されることになる。路面と平行に取り付けられているスペアタイヤを見たことがある人も多いだろう。
さらにスペアタイヤキャリアには、スペアタイヤを固定する役目だけでなく、実際に使用する際には、スムーズに着脱するための機能が備わっている。この機能のおかげで重量があるスペアタイヤでも、人力でシャシーから取り外しができるのだ。
その手順を簡単に説明しておこう。
まずスペアタイヤの下に、引き出す方向に対して垂直に鉄パイプを置く。その後、スペアタイヤを降ろすための専用ハンドルを、シャシーに設けられた専用ガイドなどを通じてスペアタイヤキャリアの口金に挿入する。チェーンが少し緩むまで、タイヤを下げる方向にハンドルを回転させ、地面にタイヤが完全に接地したら、スペアタイヤから吊り板を外すという手順だ。

このスペアタイヤキャリアだが、スペアタイヤのホイールに引っかける金属製のプレート、スペアタイヤキャリア本体と吊り板をつないでいる金属製のチェーン、チェーンを巻き取るための軸となる部品、シャフトの先端に付いているハンドルを挿入するための口金、スペアタイヤの固定状態が安定するようにホイールやタイヤの接触面を確保するための部品という構成で作られている。
普段はめったに目にすることがないスペアタイヤキャリアだが、実は非常に重要なパーツであることがお分かりいただけただろう。大型トラックの場合、シャシーが比較的高い位置にあり、スペアタイヤキャリアも見やすいことが多いので、一度くらいはその姿を見てもらいたいところだ。

