
「慣性の法則」とは、物体が運動状態を維持しようとする性質に関する物理の法則のこと。たとえば、電車に乗っているときにブレーキがかかると、自然に身体が前に倒れるような現象を指している。同様に、車両も一度動き出せば動き続けようとするので、停止させるためには相当のエネルギーが必要になり、その力は車両重量に比例するのだ。
このことからも明らかなように、重いトラックは簡単に停まることができない。トラックドライバーはそのことを熟知しているから、相応の車間距離をとるように心がけているのだ。ところが、その適正な車間距離の間に乗用車が割り込むなどすると、やむなくブレーキを踏まなければならなくなる。これは、非常に困ったことなのだ。

「慣性の法則」のとおり、トラックは重量があるから急ブレーキを踏んだとしても、乗用車より制動距離が長くなる。万一、直前に割り込みをされた場合などでは追突の危険が生じかねない。車重があるということはそれだけエネルギー量も大きいということだから、追突すれば乗用車の受けるダメージは甚大である。このようなリスクを冒してまで、無理やりトラックの前に割り込むのは自殺行為に等しいといえよう。
トラックが高速道路などで車間距離をとりながら一定の速度で走っていると、その後方を走る乗用車からすれば、見通しがよくないとか走行速度が遅いなどと感じて、追い越したいと考えるのも無理からぬこと。しかし、トラックがそういった走行をするには相応の理由があるのだ。

まず、先述のように制動距離が長いから安全な距離を保たなければならないという事情がある。また、荷物を積んでいるので急ブレーキをかければ荷崩れをする恐れがある。荷物の破損を避けるためには、加減速の少ない安定した走りをしなければならない。さらに、加減速は燃費の大敵。少しでも運行経費を抑えるためには、一定の速度で走る必要がある。こういったトラック独自の事情や特性を踏まえて、トラックドライバーは車間距離をとりながら一定の速度で走行しているのだ。

もし無理な割り込みをして事故が発生した場合、ひと昔前なら追突したトラックの過失が大きいと判定されたことが多かったようだ。しかし、現在はドライブレコーダー(ドラレコ)が普及しているために、無理な割り込みであったか否かが明確にわかる。仮に当該車両にドラレコが装着されていなくても、防犯カメラや対向車など周囲の車両のドラレコ映像があるので、事故当時の状況は明らかになりやすい。それによって、割り込んだ車両の過失割合が高くなることも多いのだ。
道行く車両は、自転車・原付から大型トレーラーまで実に多種多様だ。それぞれに特性があり、様々な思惑を抱えて道路を利用しているのだ。そられがすべて自身のことだけを考えて運転すれば、たちまち各所で事故が発生してしまうだろう。他の車両の特性を理解し、互いに思いやりのある運転を心がけることが、悲惨な交通事故を発生させない唯一の道だといえるのではないだろうか。

