
コンテストにもいろいろあるが、テレビのバラエティ番組として放送されているような、「鳥人間コンテスト」や「仮装コンテスト」であれば、視聴者から見たおもしろさにある程度重きを置かなければならない。ゆえに、真剣さのなかにもどこかにユニークさがあり、リラックスした雰囲気を漂わせているものだ。
これに対してレースであれば、クルマにせよバイクにせよ強い緊迫感を持っている。スポーツなどの試合も同様で、選手同士がしのぎを削って技をぶつけ合う。茨城県ひたちなか市で「全日本トラック協会(全ト協)」が、毎年秋に開催している「トラックドライバーコンテスト」は、コンテストと名乗っていてもその中身は明らかに後者なのだ。
このコンテストは4トン・11トン・トレーラー・女性の4部門に分かれており、それぞれ学科と実科の2競技を行なって合計点1000点を競い合う。2024年に開かれた第56回大会において、総合優勝をしたドライバーの得点は990点。競技者の全平均は879点であり、そのレベルの高さには驚かされる。

学科試験内容はたいへん難しく、運転常識や車両構造といった日頃の業務のなかで身に付けられるものだけではなく、道路交通法・道路運送車両法などのトラックに関わる法律についても、細かな設問が設けられている。これらは、国土交通省や警察庁といった関係省庁の指導を受けて作成されているのだ。この試験は選手にとっても難関であり、1年以上前から過去問を解くなどして勉強する人も多い。
実科では用意されたコースを走行するのだが、特に難しいのがバックで行なうS字やスラロームである。これらはバックカメラやミリ波レーダーのようなセンサーを用いず、ミラーを使うなどして目視のみで走行する。評価は必ずしもタイムだけではなく、パイロンなどに接触をしない正確な操作も重要なのだ。
実科の審査を行なうのは、全ト協の職員やベテランドライバーなどといった人たちではない。自動車安全運転センターの安全運転中央研修所に所属する教官たちなのである。彼らは、全国の警察や指定自動車教習所から出向してきた自動車の運転に関するプロ中のプロ。コースの要所要所に立ち、あるいは審査車両に同乗するなどして、選手の一挙手一投足を厳しくチェックをする。

こういった厳格さは、何も選手だけに求められるのではない。応援に駆けつけているギャラリーにも、守らなければならないルールがある。まず、競技が行われる2日間は選手との接触が必要最低限に制限をされる。特に学科試験会場への立ち入りは、絶対にしてはならないタブーなのだ。同様に、選手の宿泊施設にも入ることは許されない。

実科では選手に向けて多くの声援が飛ぶものの、車庫入れでは声を発したり不必要に身体を動かしたりすることが禁止されている。これは、選手にアドバイスを行なわないようにするための措置だ。これだけ厳格なルールを設け、それを徹底しているからこそこのコンテストには大きな価値がある。全国のトラックドライバーが忙しい仕事の合間に勉強や練習を重ねて、このコンテストの頂点を目指すのも肯けよう。
