
2025年11月、横浜市の商業施設でごみ処理をしていた作業員がパッカー車(塵芥車)の圧縮装置に挟まれて死亡するといった、悲惨な事故が発生した。こういった事故は、何も今に始まったことではない。塵芥車が稼働を始めて以降、相当数の作業員らが犠牲になっている。多くの車両に緊急停止装置など安全装置が取り付けられるようになったものの、完全に無くなったわけではない。
塵芥車は、基本的にごみを収集・運搬する車両だ。トラックシャシーにごみを入れる荷台を架装している。この架装は、単にごみを入れるためのタンクというわけではない。内部に圧縮装置が組み込まれており、ごみをプレスしてタンクのなかに詰め込む仕組みになっている。車両後部に大きな開口部があり、そこからごみを投入するのだ。
投入されたごみは開口部の内側に溜められるようになっているが、回転式のブレードが動いてこれを圧縮しながらタンク内に押し込んでいく。このブレードに挟み込まれることで事故が発生するのだ。こういった危険があるために、ごみの投入は専門の作業員が行なう。一般の人が直接投入しようとすれば、作業員から注意を受けることになる。


街なかのごみ収集作業は、原則的に2名で行なう(事業用のごみ収集などでは、1人で行うことも多い)。ひとりが運転を行い、もうひとりがごみの投入をするといった具合だ。通常、圧縮の操作はごみ投入作業員が行なう。緊急停止装置は万一圧縮装置に巻き込まれた際に、ブレードの回転を止めるものだ。車種にもよるが、ごみ投入口下部や操作盤付近のほか、運転席などにもスイッチがある。
近年ではごみ投入口上部などにカメラが設置され、作業の様子が運転席でも見ることができるようになっている。この場合、モニターの監視と万一の対応は運転手が行なう。さらに新しいシステムではカメラの映像をAIが監視し、あらかじめ設定した危険エリアに人の侵入があった場合には、自動的にブレードを止めることができるのだ。


もともと、圧縮操作はごみの投入が終わってから実施するものである。ごみを投入しているときは、圧縮操作を行うことはないということだ。すなわち、危険エリアに入るのはごみを投入するときだけだから、このシステムが作動することによって、作業効率が下がるということはない。
AIが優れているのは、カメラに映る映像を解析する能力である。ごみなどの投入物によって作業員の手や腕が隠れた状態である場合や、帽子を目深に被っていたとしても人であることを推測することができるのだ。また、雨が降っていてフードをかぶっていたりレインコートを着ていたりした場合や、夜などで明かりが少ない状態であったとしても、人を認識できるのである。一方で、色のついた投入物や丸みのある投入物であったとしても、それを人と誤認することはほとんどない。
万一危険が察知されたときには圧縮装置を停止させるのはもちろんのこと、その情報は記録されると同時に管理者にも送信される。この情報はデータとして蓄積されるので、分析して安全向上に役立てることができるのだ。また、人手不足が深刻化したときには、街中でもごみ収集をワンマン化しなければならなくなる。そのようなときに、このシステムが作業員を支援するツールになることが期待されている。安全性向上のために、こういったシステムの高度化が求められているのである。

