
2025年11月、国会における首相答弁をきっかけに、中国は自国民に対して日本への渡航を控えるように呼びかけた。同国では国が呼びかければ、それは要請というよりも命令に近い。多くの中国人が日本への渡航を見合わせ、航空機定期路線のうち16%にあたる約900便の運行を停止したという。
以来、日本各地を訪れていた中国人観光客は目に見えて減少した。これは、わが国有数の観光都市である京都でも同様で、街中では中国語に触れる機会がめっきり少なくなったといわれている。これまで多くの中国人が訪れていたというから、今回の措置でさすがの京都も閑散としてしまい、観光客が多くて市民が乗れないとまでいわれた市営バスには、空席が目立つようになったのだろうか。

結論を先にいうと、決してそのようなことはなかった。市営バスは、相変わらず混んでいる。確かに中国人観光客は減少しているのかもしれないが、欧州・アメリカ・東南アジアなど、ほかの国からもたくさんの観光客が訪れているからだ。さらに、国内からの旅行者も大勢いる。バスのなかには大きなキャリーケースを持つ乗客が、相変わらずたくさんいるのである。

ただ、これは全路線に共通した話ではない。京都の市営バスは全部で83系統走っているが、たくさんの客が乗って黒字になっている路線は24系統だけ。あとは、乗客の少ない赤字路線だ。この赤字路線は何も今回の渡航自粛が原因で閑散としているわけではなく、もともと観光客があまり利用しない郊外の生活路線がほとんどなのである。すなわち、京都の市営バスが押し寄せる観光客で混んでいて、市民が乗れないといわれる問題は、京都駅や四条繁華街と観光地を結ぶ路線に限られた話なのだ。
とはいえ、混んでいる路線も観光専用というわけではない。京都市は政令指定都市であり143万人が住む大都市だが、いわゆる「洛中」といわれる中心部(旧市街)は意外と狭いのである。この地域は建築規制などが厳しく、高いマンションがほとんどないこともあって、人口密度が高いとされている。しかも、高齢者が多い。すなわち、市営バスが生活に不可欠な地域なのだ。

そのバスに観光客が大きなスーツケースを持って乗り込めば、必然的に込み合うことになる。もちろん、外国人観光客も積極的に高齢者には席を譲ってくれるそうだが、それで混雑そのものが解決するわけではない。便数を増やすにも運転手不足は深刻な状況にあり、そう簡単にはいかないのだ。

そこで考えられたのが、「観光特急」である。銀閣寺や清水寺といった観光地と、京都の表玄関であるJR京都駅を結ぶふたつの系統だ。料金も均一区間とは異なり高めの設定で、敬老乗車証や定期券は使用できないという、観光客にターゲットを絞ったバスである。評判は上々で、収支も黒字。ただ、これだけで直ちに混雑が緩和されるほどこの問題は甘くない。市営バスではこういった工夫を重ね、市民にも観光客にも支持される公共交通を目指し、日々努力を続けているのである。
