
1970年代ごろまでは、路線バスに車掌が乗務しているのが当たり前の光景であった。ところが、効率化・合理化の波が押し寄せてワンマン化が進み、路線バスからは車掌が姿を消してしまった。車掌の業務は車両の誘導や安全確認といった運転手の補助と、料金収受・ドア扱い・車内案内・安全確保といった乗客対応業務が主である。ワンマン化と同時にこれらの業務がすべて、運転手にのしかかってきたのだ。
とはいえ、同時に機械化も進められていたから、運転手がすべての業務を車掌と同様に行なわなければならなくなったわけではない。料金収受には料金箱が設置されたほか、ドアは手元スイッチによる自動化、案内は自動音声、安全確保はミラー設置というように、ワンオペレーションが可能な仕組みが多数導入されたのである。現在ではキャッシュレス決済なども導入されて、運転手の負担は一定程度軽減されてきているといってよい。

ところが、乗客の安全確保はそう簡単なものではないのだ。高齢化社会の影響で高齢者の路線バス利用が増加傾向にあり、ちょっとした揺れでも車内転倒事故などの発生する危険性が高まっている。そこで、特にバスが空いているときには乗客が席につく、あるいは吊革・手摺りなどを持ったことが確認されてから、停留所を出発するというような運用が行われるようになってきたのだ。また、走行中の車内移動は禁止するといったルールを適用する事業者も増えてきている。
それでも、走行中の転倒事故を防ぎきれるものではない。状況にもよるが、乗客が転倒してけがをするようなことがあれば、運転手や事業者が責任を問われかねないのだ。そうなると、運転手は自身の後方に位置する客室を、常に注意していなければならないことになり、運転に集中できない事態に陥ってってしまう。
そこで、現在導入が進みつつあるのが乗客安全システムだ。これは、機械で乗客の状況を認識して安全であるか否かを判断する。そして、安全ではない状態か安全が脅かされる状態になったと判断されたときには、乗客に対して安全を確保するための行動を、インジケーター・モニター・スピーカーを使用して促す。同時に、運転手にも状況を通知するというものである。


客の動きや空席状況を把握するのは、車内に2台~8台設置されたカメラ。この情報を、AI搭載の電子制御ユニット(ECU)と連携させる。このECUには、
・乗客の姿勢を推定する機能
・空席を検知する機能
・走行や停車を判定する機能
・扉の開閉を判定する機能
・急制動がかかったとことを察知する機能
・走行中に客が車内移動していることを認識する機能
・客の置き去りを認識する機能(開発中)
・バス停の情報を判定する機能(開発中)
が搭載されている。


これらの情報を基に、AIが状況を判断して乗客に様々な案内や誘導をするのだ。たとえば乗客が車内を移動していた場合、モニター画像や音声で空席を案内して着席を促す。さらに、その情報を得た運転手は乗客着席まで発車を待つなどといった運用が、想定されているのだ。こういったシステムが普及すれば乗客の安全性が高まるだけではなく、運転手の負担が軽減されて人手不足の解消につながることも期待されている。

