走るエンターテイメント「XRバス」

関西万博の会期中に、大阪の街で観光客を乗せて走ったXRバス。そのツアー名は「The XR RIDE」であった。主にインバウンドを対象としていたので、日本人で体験した人は少なかったと思われる。一般的に、観光バスといえば車窓からその土地の風景を眺めるのが楽しみのひとつ。ところが、XRバスは必ずしもそうではないのだ。

乗車してまず感じるのは、車内の薄暗さだ。最近のバスは窓を大きくとる傾向が強く、たいていの場合は車内が明るい。2階建てバスに至っては、屋根がついておらずに青天井のタイプのものまである。ところが、XRバスは両サイドに窓がない。運転席の後ろには客席に向けて大きなディスプレイが設置され、本来窓の部分にあたるサイドや後部はもとより、天井に至るまでディスプレイが一面に展開されているのだ。ただ、「The XR RIDE」はサイドのディスプレイに透明パネルが採用されており、外の景色を見ることもできる。

これらのディスプレイに投影される映像はすべて連動しており、さながら360°スクリーンの映画を見ているようだ。ここに映し出される映像こそ、バスの名前にもなっている「XR」である。これは、現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称。一般に、エクステンデッドリ・アリティとかクロス・リアリティと呼ばれている。このXRに使用される主な技術は、拡張現実(AR)・複合現実(MR)・仮想現実(VR)である。

すごいのは、コンピュータで作られた迫力ある映像だけではない。AIバスガイドのキャラクターが登場し、乗客と多言語で受け答えをする。本ツアーでは乗客に大阪弁のレッスンを行ったり、乗車している人間のガイドと掛け合いをしたりして、場を大いに盛り上げる役割を担った。ちなみに、AIバスガイドは首都圏から遠隔操作されているのだそうだ。

「The XR RIDE」は関西万博の終了と同時に運行が終わってしまったが、XRバスは福井県で活躍を続けている。それは、JR西日本が運行を担っている「新感覚XRバスWOW RIDEいこっさ! 福井号」だ。JR福井駅と、福井県立恐竜博物館を結ぶルートで運行されている。車内のスクリーンに映し出されるのは、演出家・堤幸彦氏が総合演出を手掛けたストーリー。今井翼氏や、温水洋一氏などの有名俳優が出演している本格的な映像作品である。まるでショートドラマを見ているようで、約1時間の乗車時間があっという間に終わってしまう。降車する頃には、ちょっとした福井&恐竜の知識が自然と身についているというからすごい。

XRバスは、移動することをエンターテイメント化しようという試みだ。観光産業は土産物を買うなどといった「モノ消費」から、体験を重視する「コト消費」に移ってきている。XRバスは体験を提供するコンテンツを備えた、近未来の観光ツールといってよい。さらに、「トキ消費(その日・その場所・その時間でしか体験できない消費行動のこと)」や「イミ消費(ある商品を消費することにより生まれる社会貢献的側面を重視する消費行動)」などにもつながる可能性を持っている。まだ未知数の部分も多いが、今後の展開が楽しみである。

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