「走る水族館」とも言える活魚運搬車。見た目はじみだけど実は奥が深い運搬車なのだ。活魚運搬車はただ魚を運ぶだけでなく、いかに魚にストレスを与えず、眠らせたまま運ぶかという部分に、すごいハイテク技術が使われている。そこで、今回は活魚運搬車について、外からはわからないその実力を解説しよう。

「水温」
魚は暴れると体内に乳酸が溜まり、味が落ちてしまう。そのため、多くの活魚運搬車は水温を限界まで下げて、魚を冬眠に近い「低活性状態」にしてから運搬している。こうすることで、魚の代謝が落ちるので酸素消費量が減り、アンモニアなどの排泄物も出にくくなるため、水が汚れず長距離移動が可能になる。
「角の丸い理由」
さらによく観察すると、水槽の角が丸くなっている。もし機会があれば観察してほしいのだが、これはトラックの荷台に載っている水槽の中を覗くと、四隅が丸くなっていることが多い。その理由は魚の習性にある。魚はパニックになると隅に固まる習性があり、そこに角があるとそこに頭をぶつけて傷ついてしまうので、これを防ぐためだ。また角をなくすことで水流をスムーズに循環させ、酸素を隅々まで行き渡らせる狙いもある。
「波は魚の大敵」
次に運搬中の波についてだ。運搬中、トラックが揺れて水槽の中に大きな波が立つと、魚は平衡感覚を失い、酔って弱ってしまう。そこで水槽をあえて満水にして空きスペースをなくしたり、内部に防波板(仕切り)を設置して、水が激しく動かないよう工夫されている。
「泡の秘密」
長時間輸送での大敵は魚から捏排泄物。この排泄物から出るアンモニアが毒になるからだ。その対策として、多くの車両には、微細な泡(マイクロバブル)を発生させる装置がついている。この泡が汚れを吸着して浮かび上がらせるため、フィルターだけに頼らず水を綺麗に保つことができる。
「帰り道の苦労」
魚を水槽に入れて運搬するときはもちろんだが、魚を降ろした後の帰り道も神経を使うことがある。魚を下ろした後の活魚運搬車は、空っぽではなく、少しだけ水を入れたまま走ることが多い。これは完全に乾燥させると、水槽内に残った微生物や有機物がこびりついて臭いの原因になったり、次に使う時の水質調整が難しくなるためだ。
こうした様々な工夫や技術で、魚を健康な状態で運搬できるわけだが、そのために、普通のトラックには絶対に付いていない、独自の装備や構造を持っているので、ここでまとめてみよう。
まず多系統の酸素供給システムだ。魚にとっての酸素は、人間にとっての空気と同じ。これが止まると数分で全滅するため、二重・三重のバックアップが組まれている。
そのために、液化酸素タンクがあり、これは荷台の脇によく付いている銀色の円筒形のタンクのことだ。ここから純度の高い酸素を供給している。

また普通のトラックと違うエアーコンプレッサーも装備されている。これは: 外気を取り込んで泡を送る装置のためで万が一、電気系統やメインタンクが故障した時のためのもの。
また高性能な「水温調整ユニット」も活魚運搬車はならでは。強力なクーラー(ヒートポンプ)で夏場でも水をキンキンに冷やすことができる。逆に冬場は、魚が凍死しないよう水を温めるヒーター機能もある。こうした水温管理のためには水槽の断熱構造も重要なのだ。そこで、水槽の壁面には、住宅の断熱材よりも高性能な素材(FRPや発泡ウタンなど)がサンドイッチされており、外気温の影響をシャットアウトしている。

このほかにも特殊なろ過・循環システム、プロテインスキマーと呼ばれる微細な泡でタンパク質汚れを吸着し、強制的に排出する装置や、徹底した「防錆加工」も海水による腐食を防ぐために施されている。
最後に、マニアックな構造について触れておこう。水槽の底は、実は「すり鉢状」や「傾斜」になっている。これは、魚の糞やゴミが自然と一箇所に集まるようにするためだ。そこに排水バルブを設置することで、効率よく水を入れ替えたり掃除したりできる設計になっているというわけだ。
新鮮な魚が食卓に上がるにも、ハイテクに身を包んだ活魚運搬車があるからこそ。そして運んでいるのは荷物ではなく命という特殊な仕事であることに従事するドライバーもまた、繊細な運転技術と生き物への深い知識の両方が求められる職人なのだ。

