東京都杉並区といえば、東京23区の西側に位置する住宅の多い地域だ。昔は農地が広がっていたようだが、今ではほとんどが宅地に転用されているという。選挙で選ばれる区長や区議会議員が存在する「特別区」であり、約60万人の人口を抱えていることから、中堅市並みの規模を持った「都市」といっても過言ではない。この街で、定期的に「グリーンスローモビリティ」が運行されているのだ。

「グリーンスローモビリティ」は、国土交通省や環境省が「時速20㎞未満で公道を走ることのできる、電動車を活用した小さな移動サービス」と定義づけた乗り物だ。両省は「パリ協定(2015年に結ばれた気候変動に関する国際的枠組、21世紀後半に温室効果ガス排出実質ゼロを目指す)」を推進するべく、このモビリティの導入を進めている。導入効果として高齢者の移動手段を確保することや、観光客の足として活躍することが期待されている。

杉並区では、2024年11月から「グリーンスローモビリティ」の定期運行を開始。JR中央線・東京メトロ丸の内線の荻窪駅西口を起点とし、南に向かって東回りに1周約2.5㎞のコースを、25分ほどかけて走っている。同地域は立地的に20歳代~30歳代の人口比率が高いのだが、古い街なので高齢者の割合も決して低いものではない。
この地域は観光客が多いというわけではないが、音楽評論家大田黒元雄の自邸を整備した大田黒公園のほか、近衛文麿の邸宅であった荻外荘を公園化した荻外荘公園などがあり、インバウンドにもアピールできるポイントになっている。こういった状況の中で、区が掲げる「誰もが気軽で快適に移動できる地域社会の実現」するためには、「グリーンスローモビリティ」は最適な乗り物だったのだ。

乗り場は道路に沿ってバス停が並ぶ中、一番西側に位置した場所にある。運行時間・本数は、9時~16時半までの間に24便走っている。区の事業だが、運行を受け持つのはタクシーなどを運営するキャピタルモータースである。車両は2種類あり、1つは5人が乗れるカートタイプ。もう1つは、7人乗りのバス型車両だ。

どちらも視点が低くゆっくり走るので、まるで街中を散歩している雰囲気に浸れる。乗り心地のよいクッションを持つ路線バスや観光バスく比べると、路面の振動がダイレクトに伝わってくる感じは否めない。しかし、1周しても乗車時間は25分、途中で降りればそれより短いのだからさほど気にはならないだろう。

駅を出てしばらくはバスなども行き交う通りを走るが、住宅街に入ればクルマ1台がやっと通れる隘路を抜けていく。もちろん、他の車両や人・自転車も通るが、ゆっくり走っているので安心して乗っていられる。運賃は、1乗車100円(未就学児は無料)。観光客はもちろん、高齢者や荷物が多い人にとても使いやすい交通機関といえよう。

ただ、現在の運行形態と料金体系では事業の黒字化は難しい。区にとっては福利厚生の意味合いも持つのであろうが、観光客も乗客の対象になっているようだから、その整合性も考慮しなければならないだろう。完全無人運転になるなどすれば、採算性の好転が期待できるかもしれない。新たな交通機関として、さらに発展することを期待したいものだ。

