その名も「人道トンネル」なんとルートは海の下

川崎市の千鳥町と東扇島を結ぶ「川崎港海底トンネル 人道部」を実際に徒歩で往復した。終点の見えない無機質な通路、次々と現れる自転車、電波の届かない海底空間。往復約1時間で味わった異質な世界をレポートする。

海底トンネルと聞いて何を想像するだろうか。例えば日本であれば青函トンネルや、東京湾を横断する東京湾アクアラインなどが有名だが、いずれも列車や自動車が通行するためのトンネルである。

しかし、中には人が歩いて通行できる海底トンネルも存在する。それが川崎市川崎区にある「川崎港海底トンネル」の人道部だ。

ここは本土側の千鳥町と人工島の東扇島を結ぶ、全国的にも珍しい歩行者用の海底トンネルである。物流の要所である東扇島と千鳥町を、自分の足で行き来することができるのだ。

まさに知る人ぞ知る場所といった存在だが、たびたび東扇島を訪れる筆者としては、一度は自分の足で歩いてみたいと思っていた。

その日もトラックの取材で東扇島を訪れていたが、もうひとつの目的がこの海底トンネルを歩くことだった。トンネルの入口近くまで車で行き、そこから人道を一往復してみようと計画したのだった。

歩いて海を渡れる「川崎港海底トンネル」とは

最初に、このトンネルの構造と特徴を簡単に紹介しておこう。

川崎市によると、川崎区千鳥町と東扇島を結ぶ川崎港海底トンネルの総延長は約2km。そのトンネルには一般の人も徒歩で通行できる「人道」が設けられている。

自転車を持ち込むこともできるが、川崎市は「自転車から降りて、押して歩く」よう案内している。つまり自転車に乗ったまま走行することは認められていない。

また、内部には監視カメラが設置され、スピーカーから通行上の注意を促すアナウンスも流れている。

ここで撮影についても触れておきたい。

川崎市の現在の案内では、人道内部は「原則として撮影禁止」とされている。ただし、非営利の個人目的でスマートフォンなどを使用して撮影することまでは妨げないとしている。一方、複数人での撮影など、通行の妨げとなる行為は禁止されている。

トンネル入口の景色は画像の通り。

本記事はメディアへの掲載を目的としているため、人道内部の写真は掲載せず、入口と出口付近の写真のみで紹介する。内部の様子については、筆者が実際に歩いた体験を文章でお伝えしていこう。

「なんか怖い……」無機質な入口から海の下へ

今回は東扇島側から千鳥町方面へ向かうルートを往路に選んだ。

東扇島北公園には人道への入口があり、周辺にも案内表示が設置されている。

しかし実際に入口を目の前にすると、第一印象は「なんか怖い」だった。

トンネルの入口なのだからシンプルなのは当たり前なのだが、その無機質な佇まいと何ともいえない色合いが独特の雰囲気を醸し出している。

訪れたのは天気のいい日中だった。それでも「深夜にここを一人で歩け」と言われたら、間違いなくお断りするだろう。

トンネル入口の景色は画像の通りだ。

海底トンネルという構想上、入り口からしばらくは下り坂になる。その後平坦な道が続き、そして最後はまた上り坂になっている。実際に入り口からの下り坂は緩やかに続くが、平坦な場所に出るとそこでまず絶望的な長さのトンネルが目の前に現れる。とにかく終点が見えないのだ。何しろその距離は1キロ以上。普通に歩いても20分程かかる距離だ。そのまっすぐ伸びた長い通路にあるのは、非常口のドア、天井に設置された蛍光灯、ところどころに置かれた消火栓、一定の間隔で非常電話、天井には何本も黒い配線類が走っている。そして何の変化もないグレーの壁が延々と続く。この光景をお見せできないのが非常に残念であるが、とにかく非常的な空間がそこにはあった。
意を決して階段を下りていくと、そこには無機質な自動ドアがある。

まるで「ここから先は別世界」と告げる境界線のようだった。

ここから先の写真は掲載しないため、実際に筆者が歩いた様子を文章でレポートしていこう。

終点が見えない……ひたすら続く無機質な通路

海の下を通る構造だけに、入口からしばらくは下りが続く。

その後、平坦な場所に出るのだが、そこで目の前に現れた光景に圧倒された。

とにかく先が長い。まっすぐに伸びる通路の先を見ても、終点がほとんど見えないのだ。

通路には非常口のドア、天井の照明、消火設備、非常電話などが一定間隔で設置され、壁や天井には配線類も走っている。そして何より印象的なのが、延々と続く無機質な壁だ。

景色らしい景色はほとんど変わらない。この光景を写真でお見せできないのが残念だが、地上ではなかなか味わえない非日常的な空間がそこにはあった。

歩き始めて5分ほど。

「こんな場所を歩く人など、ほとんどいないだろう」

そう高をくくっていたのだが、後ろから人の気配がした。振り返ると、自転車に乗った男性が筆者の横を走り抜けていった。

その後も多くはないものの、千鳥町側の出口にたどり着くまでに何台もの自転車に追い抜かれた。

埠頭関係者らしい服装の人もいれば、荷台に発泡スチロールの箱を載せた人、さらには、まるで毎日の通勤路であるかのように慣れた様子で走っていく男性の姿もあった。

平日の昼間に、これほど自転車で通行する人がいるとは予想していなかった。

ただし前述した通り、川崎市のルールでは自転車は降りて押して歩く必要がある。筆者が見かけたような乗車したままの走行は、現在の利用ルールには反している。

一方、徒歩で通行している人とはほとんどすれ違わなかった。

何の変化もない長い通路をひたすら歩くのは、それなりに体力を使う。それでも往路は、これまで見たことのない長大な海底通路を歩いているという新鮮さがあり、意外にも楽しめた。

海を渡った実感に感動 しかし帰り道が長かった

ようやく千鳥町側の地上へ出た。そこで振り返り、今歩いてきた海の方向を確認してみた。

筆者が実際に歩いてかかった時間は約25分。海の向こう側には、先ほど出発した東扇島側が見える。

「あの海の下を自分の足で歩いてきたのか」

そう考えると、なかなか感慨深いものがあった。

しかし、今回は往復する計画だ。しばらく休憩したあと、今歩いてきたトンネルを再び逆方向へ戻る。

当然ながら景色は往路とほとんど変わらない。行きは新鮮さがあったものの、帰りはトンネルの長さをすでに知っている。

「まだこんなにあるのか」

そんな気持ちになりながら、黙々と足を前へ出すしかなかった。

さらにトンネルの中央付近で、ふとスマートフォンを見ると電波が入らない場所もあった。地上ではスマートフォンがつながることが当たり前になった現代だけに、海の下で圏外表示を見ると何とも心細い。

帰り道でも何台もの自転車が筆者を追い抜いていった。

しかし、繰り返しになるが、この人道では自転車は降りて押して通行するのがルールだ。距離が長くても、利用する以上はルールを守る必要がある。

往復約1時間 海の下に広がる異質な世界

そして、ようやく出発地点だった東扇島側の地上へ戻ってきた。

休憩を含めれば、およそ1時間にわたる海底トンネル体験だった。

事前に調べた際、「歩くなら運動靴がいい」という情報を見ていたため、履き慣れたスニーカーで来たのは正解だった。

単純に観光施設を見学するのとは違う。

長い通路を実際に自分の足で歩き、海の向こう側まで移動するからこそ、この場所の異質さを実感できる。

両側の入口付近には公園があり、巨大な物流施設や倉庫が立ち並ぶ東扇島でも、場所によっては驚くほど静かだ。

そんな港湾エリアの地下に、歩いて海を渡ることができる長い通路が存在する。

川崎港海底トンネルの人道は、派手な観光施設ではない。

しかし、終点が見えないほど長く続く無機質な通路と、「いま海の下を歩いている」という感覚には、ほかではなかなか味わえないインパクトがある。

機会があれば、一度自分の足で歩いてみてはいかがだろうか。

川崎港海底トンネル人道へのアクセス

千鳥町側の出入口は「ちどり公園」内にある。

川崎駅から市営バスを利用する場合は、「川04系統 市営埠頭行」「川05系統 東扇島循環」または「川07系統 東扇島西公園前行」で「JERA川崎火力発電所前」下車。そこから徒歩約2分となる。

東扇島側の出入口は「東扇島北公園」内にある。

川崎駅からは「川05 東扇島循環バス」を利用し、「東扇島北公園入口」で下車すればすぐだ。

なお、工事や施設管理などによって利用条件が変更される可能性もあるため、訪れる際は川崎市の最新情報を確認してほしい。

通過にかかる所要時間は徒歩で片道約25分〜30分程で24時間通行可能だ。


▼合わせて読みたい

PHOTO GALLERY

ページトップに戻る