環境とパワーを支えるトラックのディーゼルターボ

トラックでは、ディーゼルエンジンを搭載している車輌が多い。これは、低回転域で大きなトルクを出せるため、重い荷物や車輌を動かすのに都合がいいからだ。ただこの場合、車輌が大きくなるほどエンジン排気量も大きくせざるを得ない。そこで問題になるのが、地球環境に対する悪影響だ。

わが国は高度成長期に経済的な発展を遂げたものの、そのツケとして公害が大きな社会問題になっていった。そのひとつとして、経済の成長と共にモータリゼーションが全国に広がり、増加した自動車の排気ガスによってスモッグが発生するなど、環境の悪化が急速に進展してしまったのだ。

特にディーゼルエンジンは、CO2(二酸化炭素、地球温暖化ガスのひとつ)に加えてSOx(硫黄酸化物)・NOx(窒素酸化物)・PM(粒子状物質)などの有害物質を排出する。1999年に石原慎太郎都知事(当時)が記者会見で、ペットボトルの黒い粉を示して問題提起をしたことがきっかけとなり、この問題に真剣に取り組まねばならないことが明確になったのである。

そこで、トラックメーカー各社が環境に優しいディーゼルエンジンの開発にしのぎを削ったのだが、その有力な技術のひとつがターボチャージャーだったのである。これは、決して新しい技術ではない。わが国では1980年頃から乗用車への採用が盛んになり、2ℓ未満のクルマを中心に多数搭載されていた。

日本語では過給機と訳されるが、その名のとおり排気ガスを利用してタービンローターを回転させ、吸気を圧縮するという機能を持っている。吸気を圧縮するということは、エンジンに吸い込まれる空気が増えるので、同じ排気量でも大きな力を生み出すことができるのだ。しかし、大排気量・高出力の車輌が一般化したことや、省燃費を求められるようになったことなどで、乗用車のターボブームは次第に下火になっていったのである。

これに対して、ディーゼルエンジンは環境問題解決の糸口として、排気量を抑える必要性に迫られていた。すなわち、パワーを落とさずダウンサイジングを実現するために、ターボチャージャーは相性の良いパーツだったというわけだ。とはいうものの、このシステムには決定的な弱点がある。それは、低回転域ではバワーアップに貢献できないということだ。

冒頭でも触れたように、そもそもトラックにディーゼルエンジンが採用されているのは、低回転域でも大きなトルクを生み出せるからだ。いくら環境問題に対応しなければならないからといって、ダウンサイジングでそれが難しくなれば本末転倒である。そこで、導入されたのが可変ノズルターボだ。

これは、エンジンの回転数に合わせて加給効果を高めるために、排気タービンハウジング内にある排気ガスの通路を調整するという仕組み。エンジンの低速回転時には排気ガスの流速を上昇させ、高速回転時には流速を落とすので、効率的なパワー調整ができる。さらに、それまで再加速で発生していたタイムラグがなくなり、PMの発生も抑制されるという効果も持つのだ。現在、トラックの環境対策としてEV化ばかりが注目されているようだが、こういった既存技術の改善も大切であるといえよう。

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