
旧き佳き時代を彷彿とさせるボンネットトラック。わが国では、ほとんど見ることがなくなっているものの、トラックが登場し始めた戦前から、1960年代頃まではこのタイプが主流だったのだ。しかし、キャブオーバー車が登場してからは急速にその数を減らした。その理由は、車輌の全長規制がかけられたからだ。
キャブオーバーとはエンジンの上に、運転席であるキャビンを乗せたスタイルの車輌のこと。両者を垂直にレイアウトすることで、動力部と操舵部が2階建ての構造になるため、その分荷台を広く取れるのである。トラックはいかに多くの荷物を載せられるかが収益に直結するため、全長規制のあるなかで積載量が確保できるこのスタイルは、狭い道路の多いわが国では合理的といえるのだ。
これに対して、アメリカは国土が広大なので都市間幹線道路も広くて走りやすい。ゆえに、我が国のような車輌に対する厳しい全長規制を設けていないのだ。とはいえ、荷物を運ぶ営業車である以上は積載効率は高いに越したことはないはずである。では、なぜ今でもボンネット車が主流になっているのであろうか。


実は、アメリカでも1970年ごろまではキャブオーバー車が主流であったのだが、日本とは逆に全長規制が緩和されたという背景がある。さらに、ボンネット車は以下のようなメリットを持っているのだ。
衝突安全性
前にボンネットが出ている分、正面から衝突した場合にクラッシャブルゾーンになる。
空力抵抗・省燃費
キャビンの高さを低くできるので前面から見た水平断面(前面投影面積)が小さくなるため、空気抵抗が少なくなって燃費が向上する。
快適性
振動・騒音源であるエンジンと運転席を、離れたレイアウトにできる。
設計の自由度と整備性
ボンネット内が広くなるため大型エンジンのレイアウトがしやすく、機器のメンテナンスが容易。
また、アメリカの大型トラックは多くの日数を費やして、超長距離を走破する必要がある。たとえば、西海岸のロサンゼルスから東海岸のニューヨークまでなら、その距離は4500㎞にも及ぶのだ。この間、トラックドライバーにとってキャビンは生活空間になる。この距離を、キャブオーバー車の寝台スペースで過ごすのはかなり厳しいのではないだろうか。

アメリカでよく見かける代表的な長距離用のボンネットトラックは、「ビッグリグ」「SEMI(セムアイ)」と呼ばれているトラクタだ。これらには「スリーパー」と呼ばれる部屋が設けられていて、ベッド・キッチン・冷蔵庫・シャワールームといった設備を備えているものがある。これはもう、キャンピングカーだといっても過言ではない。
ボンネットトラックを製造しているのは、ピータービルト/ケンワース/フレイトライナートラックス/マックスなどで、多くがアメリカのメーカーだ。ほかには、ボルボや日野自動車などが北米向けに製造しているという。これらを日本に輸入・販売する正規ディーラーや輸入事業者は存在しない。マニアが個人輸入などで入手したごく一部の車輌しか、国内では走っていないようだ。わが国の道路や物流事情を考えれば、それはしかたのないことなのだろう。
