
現在は、空前のペットブームだという。ペットを家族の一員として、大切にしている人も多い。集合住宅ではペット可の物件が増え、分譲住宅の管理組合でもペット飼育条件について規約を設けていることが、当たり前になってきているという。ただ、ペットは生き物である。人と同じように日常生活を営む半面、多くが人よりはるかに短い生涯を閉じる。
法律上、ペットは亡くなると廃棄物の扱いを受けるが、飼い主はきちんと弔ってやりたいと思うもの。そういった背景を受けて、ペットの葬儀を扱う事業者も増加しているのだそうだ。かつてはペットの亡骸を土葬にする人も多かったが、現在は墓を建てて納骨するパターンが増えるなどして、火葬の必要性が高まっているという。それを請け負う事業者の間では、移動式のペット火葬炉(ペット火葬用車輌)が導入されているのだ。

ペット火葬車輌が登場したのは、バブル経済期真っ盛りの1990年頃といわれている。当初は、葬儀事業者や宗教関連事業者がユーザーのニーズを受け、付帯業務として始めたのだとされる。その後、マーケットが拡大したことから独立事業者が現れ、専門的に取り扱うようになっていったのだそうだ。
ペット火葬用車輌はそれほど大きなものではなく、ベースになるのは軽バン・ワンボックスバン・小型トラック(アルミバン)などといった車輌だ。これに、専用火葬炉を架装する。車輌の大きさの違いは、火葬可能なペットの大きさに比例しているのだ。火葬炉は独立しており、多くは灯油を燃料としたバーナーを備え、架装の天井部には煙突を設置している。すなわち、車輌側に大きな改造の必要はないのである。
このように、車輌の装備的にペット火葬事業の参入障壁は低いのだが、実は法的にも厳しい規制があるわけではない。そのため一時期無責任な事業者が横行し、トラブルを引き起こした例も少なくないという。現在では、業界団体が設立されてサービス基準の均一化に力を入れているほか、火災・破裂などの事故防止や環境問題への取り組みなど、ペット火葬業界全体のモラル向上に努めている。

また、最近では事業内容が広がってペットの湯灌を行える車輌まで登場した。これは、小型トラックをベースにしてボックスタイプの作業場を架装したものだ。作業場は拡張型になっており、走行中・待機中はコンパクトなアルミバンのような大きさだが、湯灌をする際にはルーフを上方に拡張して作業をしやすくする。作業場内にはシンク型の台があって、水タンクから電動ポンプでシャワーを使えるようになっている。作業場は拡張すると相当の広さになるので、大型犬程度の大きさにも対応が可能なのだ。

ペットの葬送に関する事業は相応のマーケットはあると考えられるが、人間の葬儀事業のように固定したホールを持つほどの事業規模とはいえない。ゆえに、火葬車輌や湯灌車輌といった特殊な車輌を使用した、移動式という手法が有効なのだろう。最近では、火葬・湯灌の作業員にペットロスケアの民間資格を取得させるなど、付加価値を高めて顧客の獲得をする事業者も増えた。火葬・湯灌だけではなく、新たな機能を持つ車輌が出てくる可能性も高そうである。