
引退したバスを改装してカフェや待合室にするなどといった話は各所で聞くが、移動可能なサウナにするなどといった発想は国内に例がない。こんな夢のようなプロジェクトが、2022年の春に実現したのだ。その名も「サバス(1号)」。兵庫県姫路市の神姫バスで活躍していた路線バスをベースに、本格的なサウナ設備を搭載した車両である。
サウナの本場であるフィンランドにはこのようなサウナバスは存在していたものの、わが国では初の試みであったために試行錯誤が続き、プロジェクト開始から実車のお披露目までにはおよそ2年の月日を要している。「サバス」はバスとしても機能するために、運転席や動力・制御装置などといった部分は残しておかなければならない。そのため、サウナに関する部分は、客室に設置することになる。


まず、客室前部には休息スペース・荷物置き場を設置。サウナ室は、バス後部に配置した。「サバス」は路線バスらしさを残すことがひとつのコンセプトであったため、随所にその名残がある。例えば、サウナ室内のベンチは木製だが、路線バスの座席配置のイメージを残してふたり掛け(定員8名)になっているのだ。
このほかにも、
・降車ボタンをオートロウリュボタンに転用
・整理券ボックスをロウリュタンクに改造
・ウォッシャーノズルをロウリュ放出部に改造
・座席の取っ手をサウナ室のドアハンドルに、手すりとひじ掛けをサウナベンチに転用
・エアコンの吹き出し口を吸排気口や照明に転用
・つり革を温度計に転用
・バス停をサバスの案内看板に転用
など、路線バス時代のパーツを多数流用しているので、バスマニアも満足することうけあいだ。


これだけ大きな改造をするためには、当然のことながら相応のコストをかけることになる。ゆえに、慎重に市場を読み解く必要があるのだ。「サバス1号」が成功したのは、サウナブームに後押しされたからにほかならない。「整う」などといった言葉が生まれ、サウナは温泉やスーパー銭湯はもちろんのこと、一般の銭湯にも広く普及してきている。一般家庭で使用するタイプも販売されており、着実にその需要が広がっているのだ。「サバス」はそういった潮流に、うまく乗ることができたのである。
「サバス」は移動可能という特性を生かして、イベントやフェアなどに合わせて出張営業をしている。「1号」の拠点は関西であるため、関東の需要にも応えるべく2024年2月に「2号」の製作を発表。7月に完成を見ることになった。ベース車両は東急バスのワンロマカー。これは、基本的には路線バスであるものの、高速バス・貸し切りバスとしても使用可能な、ワンマンロマンスカー(ワンマンロマンスシート)車である。

この特性を生かすべく、「1号」とは少し雰囲気を変えた。まず、サウナ室はサロンの雰囲気を味わえる「コの字型」を採用。さらに、ウィスキング(オークや白樺などの枝葉を束ねた「ウィスク」で体をたたく入浴法)ができる「優先席サウナ」設置した。「2号」の完成により、「サバス」は関西・関東の2拠点で活躍するようになる。大型駐車場を持つ施設やアウトドア施設などで、ユーザーを整わせてくれるようになるのだろう。今後、さらなる増車が期待される。


