
1991年秋、自動車免許に「オートマチック(AT)限定免許」が登場した。背景には、操作性のよいAT車が普及してマニュアル(MT)車を運転する機会の減少があったからだ。その後、乗用車は新車販売レベルで約99%がAT車となり、それに伴って「AT限定免許」の取得者は約70%にまで伸びている。すなわち、免許所持者の大半はMT車を運転することがなくなったのだ。
ところが、トラックはまだまだMT車が幅を利かせている。加えて、多くは車両総重量が3.5トンを超えるために、準中型以上の車両に対応したAT限定ではない免許が必要だ。すなわち、新規にトラックドライバーを募集した際には、必然的に門戸が狭くなってしまうという問題を抱えることになるのである。
現在、「物流の2024年問題」をきっかけとした、トラックドライバーの人手不足は深刻化しており、運輸業界では多くの新しい若い力を必要としている。そういった業界ニーズに応えて登場したのが、いすゞ自動車の小型トラック「エルフmio」だ。その名前からも明らかなように、同社のベストセラーである「エルフ」の兄弟車である。

「エルフ」は1959年に初代が登場して以来、半世紀以上にわたって我が国の物流を支えてきた名車。現行車は、2023年に発売を開始した7代目だ。これには、「BEV(Battery Electric Vehicle、電気自動車)」がラインナップされており、6代目には「Be-Cam」というキャンピングカー専用シャシがあるなど、そのバリエーションが豊富な車種なのだ。「エルフmio」は、これまでの「エルフ」よりは少しコンパクトなこともあり、「ファーゴ」や「エルフ100」の後継車種ともいわれている。
この車両がトラックドライバー不足の救世主といわれるゆえんは、
・AT仕様
・車両総重量が3.5トン未満
であることだ。すなわち、若い人たちの間で取得者が増えている「AT限定普通免許」を持っていれば運転が可能なので、ドライバーの応募ハードルが低いということである。


もちろん、小型トラックだから中・長距離輸送には向いていないかもしれない。しかし、ECサイトの利用者が大幅に増加したことなどで、B to Cの小口輸送は大幅に増えている。また、B to Bでも中継倉庫から小売店舗への配送などにおいて、少量多頻度輸送が求められることも少なくない。要するに、ラストワンマイルを担う小型トラックの活躍場所が増えてきているということだ。

こういった需要に応えるには軽くて小さいトラックを作ればよいのだが、それは口で言うほどに簡単なことではない。「エルフmio」はこの課題を解決するべく、小型トラックの運用状況を細かく分析して開発が進められたのだ。その結果、無駄なオーバースペック化をせずに、コンパクトな1.9ℓ120馬力の「RZ4E」ターボ付きエンジンを採用。加えて、車体も軽量化を図って車体重量を抑えている。このとき、車体強度を保てるように前後軸の重量を均等に配分するようにしたのだ。
これにより、車両総重量は3.5トン未満に抑えられ、最大積載量は1.35トン確保することができたのである。コンパクトで扱いやすいだけではなく、見た目もスタイリッシュだから、初めて運転する人や女性にも親しみやすいトラックに仕上がっているといえよう。新人ドライバーの入門車としても、最適な車両ではないだろうか。
