不足するトラックドライバー、中高年のジョブチェンジにかかる期待

トラックドライバーという仕事は、とにかく体力と神経を消耗する。ゆえに、体力のある若い人に向いていると思われがちだが、現実は中高年層が圧倒的に多い。国土交通省・経済産業省・農林水産省が合同でまとめた資料(2022年発表)によると、道路貨物業における15歳~29歳の若年層の割合はわずか10.1%。65歳以上は9.5%だが、中年層である40歳~55歳は45.2%に及んでいる。全産業平均では15歳~29歳は16.6%であるが、40歳~55歳は34.7%に留まっている。この数値を見るだけでも、トラックドライバーはいかに中・高年齢者の割合が高いかが明らかだ。

若者の就業が少ない原因は、必ずしも仕事がハードだからということだけではないようだ。全産業が労働環境改善に取り組んでいるなか、トラックドライバーは長時間の荷待ちや手積み・手下ろしなど、いまだに過酷な労働環境下に置かれている。しかし、それ以上に収入の大きな落ち込みが、この仕事の魅力を半減しているのだ。

バブル経済期の頃もトラックドライバーは現在と同様にハードな職業ではあったが、「3年働けば家が建つ」などといわれるほど高収入であったといわれている。起業などの夢を持つ若者が、資金を作るためにトラックに乗ってがんばっていたのだ。しかし、現在のトラックドライバーの収入は、全産業の平均を2割も下回るという状況にある。これでは、トラック好きでもない限り、ハンドルを握ってみようとは思わないのも無理はない。

だからといって若者の採用をあきらめるわけにはいかないが、当面のドライバー不足を補うためには、発想を変える必要があるといえよう。わが国の人口は減少傾向にあって若年層も同様であるが、人口構成比を見る限り中高年層は必ずしもそうとはいえない。50歳~64歳の人口構成比の変化をみると、2020年には25.7%であるが2030年には28.3%に伸びると考えられているのだ。ここに目を付けないわけにはいかない。

ある大手企業の物流子会社ではグループ企業の中高年層を対象に、トラックドライバーへのジョブチェンジを制度化している。これは、決して余剰人員の配置転換などといったものではない。現役で管理職を務めるような人材も対象で、実際に部長職からトラックドライバーになった人もいるのだという。

もちろん、これは本人の希望によるものだ。バブル経済期ごろまでは、出世をすることが大きなステイタスになるという側面があった。しかし、現在では管理職を職種のひとつのようにとらえる人が多く、必ずしもそこに執着しないのである。職責によるストレスを避け、単独で業務をこなせるトラックドライバーに、ジョブチェンジしたいという価値観を持つ人も少なくないということだ。

また、自衛隊を退役(退職)した隊員の間でもトラックやバスのドライバーになる人が増えているという。自衛官には比較的早く退職する任期付き自衛官がおり、一般に彼らは退役と同時に転職をする。また、定年退官(定年での退役は「退官」という)をする場合も50歳代半ばであることが多いので、新たな職場を探す場合がほとんどなのである。自衛官は厳しい規律のなかで訓練を重ね、精神的肉体的に鍛えられているから即戦力として期待できるのだ。

さらに、陸上自衛隊出身者のなかには大型車両の運転に長けた人材が多く、物流業界にとっては最も欲しい人材といえる。若者の就業が先細りになれば、物流業界の将来はない。しかし、現状のドライバー不足は即戦力を投入することが急務だ。そういった意味で、中高年層の戦力化は大切なのである。

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