
乗用車のプロドライバーといえばレーサーのことだが、トラックの場合は現場で働く人のことを指してそう呼んでいる。要するに、彼らは日々仕事のなかで運転技術を競っているということなのだ。閉鎖されたレース場でチューニングされた車両を操るのなら、ぎりぎりを攻めてより速く走る技術を求められることになる。しかし、一般公道で確実に荷物を運ぶという仕事であれば、安全であることが何よりも大切なのだ。
トラックドライバーの技術を競うために、開催されているコンテストは非常に少ない。そんななかでも有名なのは、毎年行われている「全国トラックドライバーコンテスト」だ。これは公益社団法人全日本トラック協会が主催しており、全国の協会支部に所属する運送会社のドライバーが対象になっている。また、「UDエクストラマイルチャレンジ」はUDトラックスが主催し、同社の大型トラックユーザーが全世界から選抜され、2年に1度開催されている大会だ。

両大会の開催目的は、現場で活躍するトラックドライバーの知識や技能を評価するところにある。ただ、そこには彼らに自身の担う社会的責務の自覚を促し、安全意識を向上させて交通事故を防止したいという思いがあるのだ。ゆえに、運転技術を競う走行競技だけではなく、日常点検や出発前点検のやり方・手順などに関する競技についても重要視されているのである。
確かに、最近のトラックは完成度が高いこともあって、以前ほど故障などの不具合が起こりにくくなった。各種センサーも多数取り付けられているから、何か問題が発生すれば警告するシステムも整っている。しかし、エラーが出たときに一次対処をするのはドライバー自身である。それを的確に行なうためにはトラックの仕組みを理解し、それに沿った点検を実施する必要があるのだ。
もし、システムにばかり頼って油断をすれば、バーストや脱輪・バッテリー異常・オーバーヒートなどが発生し、最悪の場合は大きな事故につながる危険性を孕むことになる。日常点検や出発前点検は毎日のことであり、業務に追われるなかでは面倒に思われがちだが、決しておざなりにしてよいものではない。そんな注意喚起も込めて、両大会では採点基準の厳しい点検競技が行なわれている。


「全国トラックドライバーコンテスト」の点検競技は、車両前輪を2分間でチェックするものである。その内容は、空気圧・亀裂や損傷・異常摩耗・溝の深さ・ディスクやホイールの取り付け状態の5項目だ。これだけ聞くと簡単そうだが、競技をチェックする審査員が厳しい目を持つプロ中のプロなのだ。彼らは、自動車安全運転センターのなかにある安全運転中央研究所の教官である。全国の警察や指定自動車教習所から出向しているプロフェッショナルたちなので、審査に一切の妥協がない。

「UDエクストラマイルチャレンジ」では、電気系統・ホイールナット・キャビン内計器・オイル漏れなど、22項目を10分かけて点検する。審査の担当は、トラックをよく知るUDトラックスの技術者だ。この競技が厳しいといわれる理由は、点検個所にわざと不具合が隠されているところにある。この不具合を見つけて対処するには、丁寧かつ手順どおりに点検を進めるだけではなく、車両の仕組みも理解をしておかなければならない。トラックドライバーは上手にトラックの運転をするだけではなく、安全に日々の業務を務められてこそプロと名乗れるのである。
