
運転手の残業時間に上限が設けられ、各地でバスの運転手不足が深刻化してきている。本来なら、運転手の労働環境改善につながることだから喜ばしいはずである。ところが、ひとり当たりの労働時間が減少しているのに、新たな運転手の確保がままならない。結果的にバスの減便や路線廃止、果てには廃業や他社に吸収・合併されるといった会社も出てきているという。
もちろん、路線バスを運営する各社も手をこまねいているわけではない。しかし、バス事業は公共性が高いために、赤字路線を簡単に切り捨てることができないことから、経営収支に余裕のあるところが少ない。そのために、新規採用にも十分な予算をとることが難しいのだ。そうなると、どれだけ魅力的な採用を行なって人を集めるかが勝負になる。まさに、採用担当者の腕の見せ所ということになるわけだ。

数あるバス事業者のなかでも、特に注目されている会社がある。それが「両備ホールディングス」だ。同社は岡山県に拠点を置き、バス・タクシー・トラック・路面電車など、道路運送事業を手広展開している。決して誰もが知るような大手ではないが、経営不振に陥ったバス会社や鉄道会社などの再生を引き受け、これまでにいくつか立て直してきた実績を持っているのだ。

また、その手法がなかなかユニークなのである。和歌山電鐵を再生する際には、猫をモチーフにした「たま電車」を企画したり、猫を駅長に任命したりするなどして話題作りによる集客を成功させている。不足している運転手の採用計画もこれに倣い、「宇宙一本気(マジ)な乗務員採用プロジェクト」を立ち上げ、「1年で200人を採る(グループ全体)」と宣言したのだ。



周知を図るポイントはふたつ。ひとつは、会社や仕事の内容。もうひとつは、好条件で多くの人を採用する計画があるということだ。そこでまず、地方ならではのインパクトがあるCMを放映し、ボディに採用の全面広告を施した専用バスを街中に走らせたのである。これにより、岡山周辺では両備ホールディングスが大々的な運転手の採用を行なっていると知れ渡ったのである。

周知が図れたところで、今度は仕事を体験してもらえるイベントを実施した。「大人の運転体験会」と銘打ち、バス・トラック・タクシーを実際に運転できる場を設けたのである。このイベントは複数回行われ、多くの参加者が集まったそうだ。当日は実際に営業で使用する車両などを使用し、教官の指導を受けながら教習所のコースを走行。実際に運転を体験することで、同社の車両や会社の雰囲気などの一端を知ることができ、参加者は入社の思いを強くしたようである。

こうした努力の結果、2024年7月には目標の200名採用を達成。同年11月には、第2弾を発動するに至っている。当初懸念されていた運転手不足は第1弾で充足されたものの、地域の総合運輸交通サービスを安定的に維持するためには、さらに人材の確保・育成が必要だと判断したからだ。
運転手の採用・育成は簡単なことではないが、同社のように応募者のニーズに沿った採用手法をとることが、大切なのではないだろうか。

