力任せでは起こせない。横転した大型トラック、事故復旧の舞台裏

横転した大型トラックは、力任せに引っ張れば起きるものではない。車体と積荷を固定し、燃料漏れや路面状態を確認したうえで、大型レッカーやクレーン、ウインチを連携させて慎重に起こす。

最初の仕事は「起こす」ことではない

大型トラックの横転現場で、復旧業者が到着してすぐ車両を引き起こすことはない。人命救助を優先し、警察や消防、道路管理者と連携して交通規制を実施する。車体が斜面やガードレールにもたれている場合は、わずかな振動で動き出す危険があるため、まずウインチや支柱、輪止めなどで固定する。

同時に確認するのが、燃料やオイル、積荷の漏れだ。危険物を積んでいれば、火災や有害物質の拡散にも備えなければならない。消防庁の資料でも、横転車両の復旧では車体と路面の接触状態、突起物、感電や燃料漏れなどを確認し、二次災害を防ぐ固定措置が重要とされている。

つまり、最初に必要なのは大きな力ではなく、現場全体を動かない状態にすることなのである。

車重と積荷に合わせて引く方向を決める

大型トラックは、車体だけでも相当な重量があり、積荷が残っていれば重心も把握しにくい。荷物が片側へ崩れている状態で引けば、起き上がる途中に積荷が移動し、車体が急激に回転する恐れもある。

そのため、可能であれば先に積荷を回収したり、別のクレーンで支えたりして重量を減らす。続いて、車体の強度を確保できる部分へワイヤやチェーンを掛け、大型レッカーのウインチで引く。反対側からクレーンや別のレッカーで支え、車体が一気に倒れ込まないよう制御する場合も多い。

現場条件によっては、車体と地面の間へ大型の空気袋を入れ、少しずつ持ち上げてからウインチへ荷重を移す方法も使われる。大型車事故の早期処理には、大型レッカー、クレーン、ウインチ、エアクッションなどの適切な機材と、関係機関の連携が欠かせない。

消防の活動事例でも、16トンクレーンと10トンウインチ、大型トラック専用レッカーを組み合わせて車両を動かしている。一本のワイヤで豪快に起こしているように見えても、実際には複数方向の力を細かく調整しているわけだ。

起き上がっても、すぐには走れない

車体がタイヤを下にして戻れば、作業終了というわけではない。横転の衝撃で、フレーム、サスペンション、車軸、タイヤ、ブレーキ配管などが損傷している可能性がある。エンジンオイルや冷却水が本来とは異なる場所へ回っていることも考えられるため、その場でエンジンを始動するのは危険だ。

復旧後は大型レッカーで車体を保持し、必要に応じてけん引できる状態へ整える。路面に散らばった積荷、ガラス、車両部品、油なども回収しなければならない。道路を素早く安全に開放することは、後続事故や長時間渋滞を防ぐうえでも重要になる。

横転車両を起こす作業は、派手な力仕事に見える。しかし、その本質は重心を読み、危険を予測し、数センチ単位で力を制御することにある。道路を再び通れる状態へ戻すまでが、事故復旧のプロの仕事なのだ。

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