
正確な数値があるわけではないが、旧車好きの人たちは相当数いるものと思われる。時計・スニーカー・ジーンズなどといった日用品も同様で、「ヴィンテージ物」はとくに重宝されているようだ。海外ではオークションが日常的に開催されていたり、専門のECサイトがあったりするなど、一大市場を形成しているといってよい。
旧車番組として有名なもののひとつに、イギリスで製作された「名車再生! クラシックカー・ディーラーズ」がある。この番組はボロボロの旧車を購入して新車同様にレストアし、新しいオーナーに販売するという内容のものだ。車輌は1950年代から2000年代ごろのものが中心で、すでに部品の入手が困難なものも多い。それでも、インターネットや口コミで取扱店を探したり自作したりして、多くを公道が問題なく走れる状態に仕上げていく。旧車好きには、たまらない内容だ。
一定数の旧車好きがいるのであれば、この番組のような事業がわが国でも成り立ちそうだが、そう簡単なものではない。まず、旧車にかかる税金の高額さである。さらに、同番組では完成車の多くが一般の人でも手の届きそうな金額だが、わが国では旧車の流通量が多くないために、車種によっては高級車並みの値段も珍しくはない。こういった事情から旧車を扱う店舗が少ないこともあり、市場が成り立ちにくくなっているのだ。
そんななかで、全国的に有名旧車専門ショップなのが茨城県水戸市にある「ケイズ・ヒストリック」である。同店は創業からすでに30年、オーナーは根っからの旧車マニアでハコスカGT-Rを2台乗っていたのだという。旧車を販売するかたわら、それらの搬送も請け負っているのだが、それに使用しているトラックもまた旧車なのだ。日産ディーゼルの3代目ファインコンドルや、日野自動車の4代目ライジングレンジャーを保有し、これらは今も現役で活躍している。

ある日、同店のオーナーは日野自動車の依頼を受けて、東京都日野市の同社本社工場に車輌を引き取りに向かった。搬送を依頼されたのは、部品取り車となった2代目コンテッサセダンの引き取りである。このクルマは、日野自動車がルノーのノックダウン生産でリリースした日野ルノーこと4CVから得たノウハウを基にして、自社オリジナルで開発した初の乗用車。2代目は、1964年~67年の間に生産された希少車だ。イタリアの有名カーデザイナーであるジョヴァンニ・ミケロッティの手による美しいデザインと、モータースポーツでも活躍した卓越した動力性能で、当時マニアの間では垂涎の1台であったという。


この由緒ある車輌の引き取りに、日野自動車本社に現れたのがライジングレンジャーだったから、同社社員の興奮はいかばかりのものであったのだろう。ベテラン社員にしてみれば、仲の良かった同級生が今も現役で活躍している姿を見たようなもの。思わず、自らと重ね合わせて歓喜したであろうことは想像に難くない。


トラック作りに携わるメーカー社員がそうであったように、トラック乗りも旧車好きがたいへん多いといわれている。やはり、彼らは相棒であるトラックが大好きで、愛車を大事に乗る習慣が、身についていてるのではないだろうか。実際に、同車の先代のスペースレンジャーやスーパードルフィンなど、今でも現役として活躍している車輌も多い。先進安全装置なども魅力的だが、いかにも機械臭い旧車にノスタルジックな想いを持つのは、プロドライバーの性なのだろう。