【無理な追い越しはNG】“遅い車”にイラッとする前に。プロが実践すべき「安全な付き合い方」と運転席の事情

「前の車、遅いな…」と感じたときに知っておきたい、遅い車両の事情と、イライラを抑えて安全にやり過ごすための運転のヒント。

道路を走っていると、思ったよりゆっくり走る車両に出会うことがある。農道を移動する農機、作業現場へ向かう清掃車や工事車両、大きな荷物を積んだトレーラー、坂道で速度が落ちる大型車などだ。こちらが急いでいると、つい「早く行ってほしい」「どこかでよけてくれないかな」と思ってしまう。しかし、こうした遅い車には、それぞれ遅く走らざるを得ない理由がある。

たとえば農機は、もともと高速で走るための車両ではない。大きなタイヤや作業機を付けたまま移動していることもあり、速度を出せば不安定になる。清掃車や工事車両も、作業のための装備を積んでいたり、周囲の安全を確認しながら走っていたりする。トレーラーは車体が長く、急な加速や急な進路変更が苦手だ。遅いからといって、運転が下手なわけでも、わざと後ろを詰まらせているわけでもない。

問題は、後ろについたドライバーの心理である。前の車が遅いと、車間距離が自然と詰まりやすい。すると視界が狭くなり、対向車や道路状況の確認が遅れる。さらに「今なら行けるかも」という気持ちが強くなると、無理な追い越しにつながる。これは非常に危ない。とくにカーブの手前、坂の頂上付近、交差点の近く、横断歩道の前後では、見えていない危険が多い。対向車だけでなく、歩行者、自転車、脇道から出てくる車にも注意が必要だ。

安全に付き合うために大切なのは、まず車間距離をしっかり取ることだ。前の車に近づきすぎると、追い越す判断も遅れ、相手にもプレッシャーを与えてしまう。少し距離を置くだけで、前方の見通しがよくなり、冷静に判断しやすくなる。追い越しを考えるのは、直線で見通しがよく、対向車がなく、標識や道路標示で追い越しが認められている場所だけでいい。少しでも迷うなら、行かない。それくらいの感覚でちょうどよい。

また、遅い車両の側にも事情がある。路肩が狭くてよけられない場所もあれば、停車するとかえって危険になる場所もある。車幅のあるトレーラーや作業車は、左に寄せたくても寄せきれないことがある。農機の場合は、段差や側溝を避けながら走っていることもある。後ろの車から見ればただ遅く見えても、運転席ではかなり気を使っている場合が多いのだ。

もちろん、前を走る側も、後続車がたまっていることに気づいたら、安全な場所で道を譲る配慮は大切だ。ただし、それを後ろの車が強く求めすぎるのは違う。道路はスピードの速い車だけのものではない。仕事の車も、生活の車も、地域の移動を支える車も、同じ道路を使っている。

“遅い車”に出会ったときに試されるのは、運転技術だけではない。焦りを抑える気持ち、相手の事情を想像する余裕、危ない場面では待つ判断力である。数分早く着くために無理な追い越しをするより、確実に安全に通過するほうがずっと価値がある。遅い車をうまく追い越すことより、遅い車と安全に付き合えること。それこそが、本当に上手なドライバーの運転なのだ。

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