動いて当たり前、あって当たり前。しかし交通の安全を守る重要な設備、それが信号機。車。普通すぎて普段は気にすることもないだろうが、じつはイマドキの信号機は、単に色が変わるだけの設備ではない。技術の進歩とともに、信号機は今や交通を最適化する高度なコンピューターへと劇的な進化を遂げているのだ。
そこでその歩みを、歴史・ハードウェア・システムの3つの視点から紐解いていこうと思う。
信号機の夜明け「ガス灯から電気式へ」
世界初の信号機は、1868年のロンドンに登場した。驚くことに当時の信号は「ガス式」で、警察官が手動で操作していた。しかし、ガス式の信号は爆発事故が起きたため短期間で撤去されることになったのだ。

いっぽうで日本での歴史は1930年(昭和5年)の日比谷交差点から始まっている。当時は「緑・黄・赤」の意味が浸透しておらず、灯火の中に「ススメ」「トマレ」という文字を書いたり、警察官が横で手旗信号をしたりしてルールを教えていた。
「青」信号と呼ばれていても、本来は「緑色」であることに疑問を持った人は少なくないはずだ。これは当時の新聞が「青信号」と報じたことや、日本人が古来から緑色のものを「青(青菜、青物など)」と呼ぶ習慣があったことから、1947年に法令でも正式に「青」と呼ぶようになったという。

その後、時間経て信号機はハードウェアのとして進化してゆくことになる。その代表例が電球から「超薄型LED」へ変わったことだろう。かつての信号機は、大きな電球を収めるための「奥行き」と、西日で見えにくくなるのを防ぐ「長いひさし」が特徴だった。しかし、 1994年頃から普及したLED式信号機の登場は非常に画期的だった。消費電力が電球の約6分の1と省エネなだけでなく、寿命が長く、西日が当たっても「擬似点灯(点いているように見える現象)」が起きないという安全上の利点を持っていたからだ。
そして、最新の信号機はフラット型になり驚くほど薄くなっている。この厚みの変化は、奥行きをなくし、さらに少し下向きに傾けて設置することで、雪が積もって信号が見えなくなるのを防ぐという方法に結びついている。それに加え、装置自体が軽いため、支柱への負担が減り、台風などの強風にも強くなるというメリットもある。

こうして信号機は時代とともに姿や方式を変えてきたが、現代ではシステムの進によってAIと通信による「最適化」という重要な役割を担うこととなった。現在の信号機は、ネットワークでつながり、リアルタイムで秒数を変える「生き物」のような存在と言える。
従来の「感応式」は、地面の下の磁気センサーや超音波で「車がいるか」を判断するだけだったが、最新型はさらに進化し、 カメラで交差点の映像を解析し、車両の数だけでなく「歩行者が渡りきれていないか」「右折車が溜まっているか」を判断して、青信号の長さを数秒単位で調整している。
また隣り合う信号機同士が通信し、「次の信号にこれくらいの車が行くから、あらかじめ青にしておこう」といった連携を行い、渋滞を未然に防ぐこともできるのだ。
日進月歩で進化してゆく信号機は、将来的に信号機が車に直接データを送る時代になると言われている。現在では「あと10秒で赤になるので、時速40kmで走れば止まらずに通過できます」といった情報を車載器に送る実験が行われている。
さらに、救急車や消防車が近づくと、進路上の信号を強制的に青に変え、一刻も早い到着を支援するシステムも導入が進んでおり、信号機は道路の交通整理役から、自動運転社会を支えるインフラの頭脳へと姿を変えつつあるのだ。
では最後に信号機の装備についても触れておこう。横断歩道などで立ち止まった時に、頭上の信号機をよく観察してみてほしい。下向きにスピーカーがつているのがわかるはずだ。これは視覚障害者向けの音響装置(擬音式)で視覚に障害がある方に「青信号になったこと」や「信号の方向」を知らせるためのスピーカー。

このスピーカーから流れる音はすべてが同じでなく、ピヨピヨという音の場合は主に東西方向(または主道路)、カッコーという場合は主に南北方向(または従道路)となっている。このように音の種類を分けることで、どちらの方向が青なのかを音だけで判断できるようになっているのだ。
以前はメロディ式と呼ばれる「通りゃんせ」や「故郷の空」などのメロディが流れていたが、現在は方向が分かりやすい上記の擬音式に統一されつつある。
そして 最近のスピーカーは、ただ音を出すだけでなく、周囲の騒音に合わせて音量を自動調整する機能を持っている。交通量が多い昼間は聞き取りやすいように音を大きくし、車が少ない夜間は近隣住民への騒音に配慮して音を小さく(または停止)するといった制御が行われているのだ。
24時間休むことなく動き続ける信号機。単純な機能のように思えるか、実際はハイテクの塊と言っても過言ではないだろう。目にする機会が多い信号機、ちょっとした瞬間にじっくりと観察してみるのも面白いはずだ。
