日本の食卓を支える物流のなかでも、極めて特殊なスキルと機材を要するのが「活魚運搬」だといっても過言ではない。海で獲れた魚介類を、死なせることなく「生きたまま」市場や飲食店へ届けるこの車両は、まさに「走る水槽」である。決して走りやすい道ばかりを通っているわけではないのに、魚介類を傷つけることなく運搬することができるのは、いったいどのような仕組みになっているのであろうか。

活魚車の荷台には巨大な水槽があって、その内部は単に海水を満たしているだけのように思えるが、決してそんな単純なものではないのだ。デリケートな魚介類を生着たまま運ぶためには、海中と同等の環境を維持するハイテク装備が凝縮されているのである。まず、水槽壁面にはFRP(繊維強化プラスチック)と断熱材を組み合わせた合成素材を使用。これにより外気温の影響を最小限に抑え、急激な水温変化による魚のストレスを防いでいるのだ。

さらに、酸素供給装置・濾過装置・水流調整機能を備えている。大型車の場合は水槽1つで3t、トータルでは18tに及ぶ海水を管理するため、専用の発電機・高出力のクーラー・酸素流入装置が不可欠なのだ。また、 運転席やキャビン付近には、水温計付き警報機・クーラーモニター・水槽内監視カメラが設置されている。ドライバーは常にこれらの数値をチェックして、異常があれば即座に対応する精密な運行管理が求められるのである。

この車両は道路運送車両法において、「特殊用途自動車(8ナンバー車)」に分類される。これはレッカー車や救急車と同じカテゴリーであり、国土交通省によって厳格な構造要件が定められているのだ。主な規定は、以下の通りである。
・独立した積載設備
魚介類を生存させる十分な海水貯蔵能力を持ち、かつ客室(運転席)と完全に隔壁で区分されていること。
・生命維持装置の装備
酸素等を供給できる装置を有すること。
・漏洩・飛散防止
走行時の揺れによる海水の漏れや飛散を有効に防止できる構造であること。
・開口部と排水機能
適切な積卸口および排水口を有し、ポンプを備える場合はその動力源と操作装置を完備すること。
・水位の明示
密閉されていない場合、最大積載量を算定する際の上限水位を車体に明確に表示すること。
この車両を大別すると、2つのタイプが存在する。1つは、ボディ一体型だ。活魚運搬に特化した設計になっており、高機能な水温調整機や大容量の積載スペースを持ち、大量輸送に威力を発揮する。もう1つは、平ボディ搭載型(脱着式)である。平ボディの荷台にコンテナやタンクを積み込むタイプで、輸送品目や用途に応じて装備を変更できるといった汎用性がある。

これだけ特殊な性能を持っている車両なだけに、新車価格は4000万円〜5000万円に達することも珍しくない。中古車市場も活発で、小型車なら30万円前後からあるが、大型車なら400万円〜800万円程度が平均的な相場になっているようだ。新鮮な魚介は決して安いものではないが、車両を含めた運搬コストを考えればやむを得ないのかもしれない。


