保存版| トラックのハンドルは、乗用車より大きく、水平に近い角度で取り付けられている印象が強い。しかし、その理由は単純に車体が大きいからではない。キャブオーバー構造や操舵力、取り回し性能、最新トラックの進化から、その違いを探る。
水平に近いのはキャブオーバー構造が関係する

日本の物流で使われるトラックの多くは、前輪の上にキャブを配置したキャブオーバー型である。ボンネットを設けないため車体を短くでき、その分だけ荷台を長く確保できる構造だ。
一方、運転席のすぐ下には前輪やステアリングギヤがある。ステアリングホイールから前輪へ操作を伝えるシャフトを収める都合から、乗用車よりステアリングコラムが立ち気味になり、ハンドル面は水平に近づきやすい。
ただし、現在のトラックがすべて床と平行なわけではない。ステアリングシャフトには複数のジョイントが使われ、角度や前後位置を調整できるチルト・テレスコピック機構も普及した。現行の三菱ふそう・キャンターにも、チルト&テレスコピックステアリングが設定されている。ドライバーの体格や運転姿勢に合わせ、乗用車に近い感覚で調整できるよう進化しているのだ。
大きい理由は操作力と細かなコントロール

かつてのトラックで大径ハンドルが使われた大きな理由は、重い前軸と大きなタイヤを少ない力で動かすためだった。ハンドルの直径が大きければ、てこの原理によって強い力をステアリング機構へ伝えやすい。また、同じ角度だけ回した場合でも手の動きが大きくなるため、急激な操作を抑えながら細かく方向を調整できる。
ただし、「大きなハンドルにすればタイヤが少ししか動かず、横転を防げる」という説明は正確ではない。ハンドルを何回転させると前輪がどれだけ動くかは、主にステアリングギヤ比やリンク機構によって決まる。ハンドルの直径だけでタイヤの動きが決まるわけではない。
現在はパワーステアリングの性能が向上し、大型トラックでも小径化が進んでいる。現行いすゞ・ギガも、軽い操作力と小径ステアリングによる取り回しの良さを特徴として掲げる。ハンドルが大きいことは、もはやすべてのトラックに共通する条件ではない。
切れ角は一律ではなく車型によって変わる

「乗用車の切れ角は30〜35度、トラックは45度以上」などと一律に分けることも難しい。前輪の最大切れ角は、タイヤサイズ、車軸、サスペンション、ホイールベース、フェンダー内の空間などによって異なるからだ。
大型車は車体が長いため、小回り性能では不利になりやすい。そこで前輪を大きく操舵できる構造や、用途に適したホイールベースを採用し、旋回に必要な道路幅を抑えている。
例えば現行いすゞ・エルフEVの最小回転半径は、標準ホイールベース車で4.4m、ロング車では5.8mとされる。日野デュトロにも最小回転半径4.4mの仕様があり、同じトラックでも車型や軸距によって小回り性能が変化することが分かる。
さらに現在は、油圧式ステアリングに電動モーターを組み合わせた技術も登場した。いすゞ・ギガトラクタのアクティブステアリングは、路面のわだちや横風などによるハンドルへの影響を抑え、ドライバーの操舵負担を軽減する仕組みを採用している。
水平に近い角度と大きな輪が、かつてのトラックらしいハンドルの姿だった。しかし現代では、キャブオーバーの合理性を残しながら、小径化、位置調整、電動アシストへと変化している。見慣れたハンドルにも、トラックの構造と技術の進歩が凝縮されているのである。
